働き方改革はどこへ行った? 今期学習指導要領をもとにした通常教育の評価

今年度は、中学校で平成29年改訂学習指導要領が完全実施の年です。

筆者は今年度、久しぶりに通常級の授業も受け持つことになりました(立場は特別支援学級主任のままです)。そういう事もあって、勤務校で行われた、新しい評価に関する研修会(教育委員会の指導主事が来て、1時間ほど話を聞きました)に、しっかりと耳を傾けました(もちろん、評価の問題は特別支援学級も同じなので、通常級を受け持つから「しっかり」というわけではありませんが)。

さて、今回から今までの4観点(国語は5観点)の観点別評価が、すべて3観点へとなりました。すなわち、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つです。

筆者が中学校の教員になった30年以上前は、評価の大部分は定期テストの点数で判断されていました。やがて、「観点別評価」が求められるようになると、テストの問題を観点別に作成し、その観点別の問題の出来具合で「観点別評価」を行っていました。評価はテストだけではなく日常の学習状況も入れるべきだという流れから、テストだけではなく、毎回の授業プリントを回収し、一つ一つ評価していった事もあったのですが、割合的には、テストの点数の割合を比較的多く評価資料としていました。実を言うと、数年前、前任校で通常の学級の授業を受け持ったときも、テストの点数の割合が、授業点に比べると少し多かったと記憶しています。さらに、その授業点についても、プリントが取り組まれているかどうかを評価しているに過ぎず、生徒の記述内容を細かく分析するには至っていませんでした。

さて、現在の勤務校に来てから、ずっと特別支援学級のみを担当していたので、正直に言うと、通常教育の評価について、あまり真剣に考えていませんでした。今回、改めて指導主事の話を聞いていて、違和感を感じました。

評価をするために、教員は多くの作業をしなくてはならないように思えたのです。

国立教育政策研究所のホームページから、「学習評価の在り方 ハンドブック 小中学校編」をダウンロードしました。

その中に、このようなページがありました。

「知識・技能」では、「児童生徒が文章による説明をしたり,各教科等の内容の特質に応じて,観察・ 実験をしたり,式や グラフで表現したりするなど 実際に知識や技能を用いる場面を設けるなど,多様な方法を適切に取り入れ」とあります。「思考・判断・表現」では、「具体的な評価方法としては, ペーパーテストのみならず,論述やレポー卜の作成,発表,グループや学級における話合い,作品の制作や表現等の多様な活動を取り入れたり,それらを集めたポー卜フオリオを活用したりするなど評価方法を工夫」とあります。「主体的に学習に取り組む態度」では、「具体的な評価方法としては,ノートやレポート等における記述,授業中の発言,教師による行動観察や, 児童生徒による自己評価や相互評価等の状況を教師が評価を行う際に考慮する材料のーつとして用いる」とあります。

評価に関する方法は、現場の教師に任されているのです。現場の教師は、もちろん教育のプロであり、また、様々な個性や経験を持っているので、上から評価方法を押し付けるのではなく、現場に任せるという発想は、間違ってはいないと思います。だけど、そういう評価方法の検討、そしてレポートや作品など生徒が表現したものを、いつやれというのでしょうか。しっかりした評価をしようと考えたら、じっくり単元の目標や授業を検討し、評価をどうしていくか時間をかけて検討していかなくてはいけないと思います。私は、そういう作業に相当な時間を必要としてしまいます。

さらに「学習評価の在り方 ハンドブック 小中学校編」の続きは、こうなっています。

 評価に当たって、生徒が表現したものを読み解き、「知識及び技能を獲得したり,思考力, 判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おう」としているか、「粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しよう」としているかを読み取らなくてはならないというのです。40人学級を5クラス受け持っていたら、200人について、それらを詳細に評価しなくてはならないということなのでしょう。実際、研修会では、指導主事が生徒レポート例を持参し、そこから評価をつけるという演習が行われました。200人のレポートの読み取りを、教師は、いつやれというのでしょうか。

通常教育からだいぶ離れていて、ふと気づくと、私の知らない世界がそこには広がっていました。

中学校は、部活動など生徒の活動があって、生徒下校は勤務時間を過ぎた頃となることが常です(現在はコロナ禍で、多少部活の日は減っていますが)。勤務校は日課の中に多くの分掌会議があって、空き時間はほとんどありません。生徒指導も多く、空いた時間はそういう対応や、他の教員と対策を話し合ったりにも当てられます。事務作業も多く、ここまであげた仕事内容をこなすだけでも、勤務時間は大きく超えてしまいます。そのうえで、最も大切な教材研究があって、そして、この評価作業があります。文部科学省は働き方改革等と言っておきながら、教員の仕事をこんなところでも増やしているんだ。そういうことが、今回、わかりました。

確かに、テストだけで評価をしてはいけません。テストでは測れないものが多くあります。今回の学習指導要領が言う「育成を目指す資質・能力」は、とても大切だと思います。特別支援学級での指導にも、大いに取り入れているところです。これらの資質・能力を評価しようと思えば、現場の教師がその学校・生徒にあった評価方法を工夫し、生徒が表現したものを詳細に検討する必要がある、それは理解はできます。だけど、今の学校現場にそういうことに時間を大きく割く状況はないのではないでしょうか。先生方は真面目だから、子どもたちのことを考え、評価方法を工夫し、子どもが表現したものを詳細に評価するのでしょう。時間をかけて。働き方改革は、どこへ行ってしまうのでしょう。

 「ハンドブック」には、評価の方法の共有で働き方改革とあります。確かに「学校全体や他校との連携の中で,計画や評価ツールの作成を分担するなど,これまで以上に協働と共有を進めれば,教師一人当たりの量的・時間的・精神的な負担の軽減につなが」るのでしょうが、連携し、共有するための話し合いの時間や準備、まとめの時間も必要になります。何をするにも、時間が必要であり、それに取り組む前にすでに勤務時間は超えているのが現状なのです。もう少し、なにか、現状の仕事内容を削減しながらできる「働き方改革」は、ないものなのでしょうか。

今回の評価に関する文部科学省の考え方は、教員の仕事を増やす、学校がしなくてはならないことを増やす、その一つの例であるように思えます。繰り返しますが、確かに必要なものなのでしょう。でも、何か他にやりようはないものなのでしょうか。

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